【音盤レビューvol.1】ヱスケー『同じ気持ちでいるのは難しい』

ヱスケー 音楽
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古本屋なのに音楽の話をするのもなんだかなぁ…。なんて思ったりするのですが、定期的にオススメの作品を紹介したいと思います。

今回は、北海道札幌で活動しているアーティスト、ラッパーでありトラックメイカーのヱスケーです。2019年11月13日に新譜『同じ気持ちでいるのは難しい』を発売しました。新譜が発売されてからほぼ毎日ヘビロテ状態で聴いています。これがまた飽きが来ないんですよね。不思議なことに…。そんなヱスケーの魅力をお知らせできたらと思います。hip hopを聴かなくても音楽は好きだよっていう方ならオススメできます。

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ヱスケーのプロフィール

現在、ヱスケーは、北海道のフリスタイラーMC松島率いるlabel tokyo togari nezumiに所属しています。因みに松島はフリースタイルダンジョンにも出た事があります。

ヱスケーは謎に包まれたアーティストです。それは何故か…。実は未だに素顔を公には晒していません。アーティスト写真も仮面を被りライブもやらず日々楽曲制作を続けています。今年に入りかなり精力的に作品を出している事から伺えます。すでに1枚アルバム、2枚EP、1枚シングルがBandcampで購入できます。

年齢は31歳、男性、独身、札幌在住

新譜『同じ気持ちでいるのは難しい』

まず一つ言いたいのは、これはhip hopの作品ではありますが、J-pop好きで最近の流れをしっかり掴んでいる方なら必ず琴線に触れる作品です。その為、今まで日本のヒップホップはダサいなんて食わず嫌いしていた方は、一度騙されたと思ってこの作品を聴くのをおすすめします。

ヱスケーの作品で光っているのは、トラック&リリック。

そう!ヱスケー本人が全てを作成しているのです。それでいてどちらも完璧にヱスケーという人間にフィットしている。本当にこの一言に尽きるのです。

トラックは、多様で緩いビートからシリアスでキレのあるビート、アブストラクトや早いテンポで攻めたビートもあり、リスナーを飽きさせないビート作りに脱帽します。

リリックは、まさにヱスケーの等身大を示すような、そのまま日々感じたことや社会に対して募る思い。人柄を感じさせる言葉も数々に時折、彼の心が自分に乗り移ったかの様な錯覚すらさせるのです。

イントロから始まるオープニングは、ヒップホップのアルバムからすると少し珍しいかもしれない。これは、2018年の終わりに初フィジカル作品となった『気持ちをちぎって捨てたくなる』にも共通している。

ヱスケーと盟友シロシビンズとの対談では、このイントロの話になり説明がなされている。本人曰く次曲へと繋ぐ導入部と位置付けているようだ。一曲目から曲を入れる事に違和感があるのか、そこに彼なりの独特な雰囲気を大事にしている感覚が見て取れる。

今回のアルバムは7曲入り、この作品が出るまでにYouTubeにて3曲『深夜のスーパー』『うまくやれ』『1日で終わる夏』が先行してupされていたが、アルバムが出た後にもう一曲『ここからは出られない』のmvが見れる様になっている。

実は、この4曲が今回のアルバムを決定付ける曲であるのは間違いない。

深夜のスーパーにみる独身男性の日常と苦悩

この曲は、まさにヱスケーの日常だ。仕事が終わり夜中にスーパーへ行って何を食べようか物色する。その何気ない光景に感じたままをリリックに落とし込んだその真っ直ぐな気持ちを感じる。

ただ、これはそんな光景と共に自分が歩んできた人生についても振り返るのである。これは、独身男性の苦悩とも言える迷いや日常への疑問、日々を坦々と過ごすことへの不安が表されている。

私も同年代の頃、いろんな事を感じていたのをふと思い出した。

うまくやれ?のフラストレーション

人は常に勝手な生き物だと思う。

他人が自分と同じだと錯覚し自己中心的な意見を発する。他人は、誰もが自分ではないという当たり前の現実に気付かないのが原因だ。

うまくなんかできるか!

社会の中で自分が孤立してる気がする。その空気について行くつもりも無ければ、ついて行く気にもならない。日本社会に蔓延る輪という目に見えない現象。大多数の人間がその輪の中に取り込まれている中、馴染めず冷静に分析している自分。

この曲は、ヱスケーが感じる日本社会に向けた自分視点の素直な感想が歌われている。

そして、これを聴いて同じく感じている人間は少なからずいると思うし、もしかすると自分かよ!と親近感すら覚える人もいると思う。清々しいくらいヱスケーがどういう人間なのか?知るのにわかりやすい一曲だ。

ここからは出られないの気持ち良い疾走感

このアルバムの中でもというかヱスケーの曲の中で最速のbpmかもしれない位トラックが速く気持ちの良い疾走感を感じる一曲。

深夜当てもなくドライブをするそんな何気ない日常を切り取った曲。同乗者との関係、そして目的がない空虚さすら感じる不思議な感覚に陥る。

滞在時間より移動時間の方が長いのフックは秀逸で、現場の雰囲気を起草するのに充分な表現だと思う。

表題の同じ気持ちでいるのは難しい問題

シリアスなトラックに最初聴いた時はヱスケーらしくないと言うのはおかしな話だが、刺さる様なトラックが自分の中で印象的だった。

リリックが攻撃的でどれも強い気持ちがリスナーを殺しにかかってくる。吐き出すリリックに抉られるような気持ちになる。最後にボコーダーのようなくぐもった声が何か心の深い所に干渉するそんな印象を感じる。

しかし、これがリスナーに向けたものでも無ければ、単純にヱスケーの心の内を表した一曲でしかないのが現実なのだと思う。そこもまたヱスケー作品の特徴と言えるかもしれない。

200回以上聴いたヱスケーまとめ

ほぼ毎日魅入られたかの様に聴き続けるこのアルバムなんですが、結論から言うと10年代のhip hop作品の中でもポップよりであり、強いて言えばPUNPEEやsummit界隈、STUTS、との親和性も感じる。

逆にヒップポップから離れてみると最近話題のSIRUPやiri、中村佳穂などR&Bを聴くリスナーにも確実に刺さる作品です。ヱスケーは、同世代の共感を得るだけではなく、幅広い音好きリスナーをカバーできる稀少な存在と言えると思います。

トラック、リリック、そしてスキルもある。この魅力的な音楽を一度騙されたと思って聴いてください。

確実に気に入って頂けると信じています。

Spotify

過去作 『いいことはいつか終わる』『気持ちをちぎって捨てたくなる

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